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1章 盲目の彼女
恵梨の友人にはマメというあだ名の女の子がいる。そのマメの家の向かい側には、古い国立大学の敷地があった。向かい側といっても、おそろしい広さを持っているので、マメの家から一番近い北口でも、歩けば三十分はかかる。緑豊かな敷地の中は、病院も図書館も博物館も、さらにいえば売店やちょっとしたレストランもあって、それ自体が独立した街のような雰囲気を持っている。
マメは幼い頃、大きくなれば自然とこの大学に入るのだと思っていたそうだ。中学も高校も大学も、家からの距離がいちばん近いところに入学するのが普通と思っていたし、彼女が世界でいちばん敬愛する父親がこの大学を卒業していたから、自分もそうするものと、思い込んでいたらしい。
それが違うと気づいたのはいつごろのことだったのか。自分の成績がさほど良くないと気づいたときなのか、それとも、いまのように毎日の生活に不便を感じるようになってからなのか、マメにはもう思い出せないという。
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