1章 盲目の彼女

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 とにもかくにも、マメと恵梨は今日、マメの父親の母校である、この大学の敷地に足を踏み入れることになった。去年知り合ったマメの友人の佐藤庸介がこの大学の学生で、毎年五月に催される学校祭に二人を招いてくれたのだった。  恵梨とマメは農学部の出し物であるふれあい動物園に参加したり、模擬店で販売されている地元でとれた野菜を買ったりして、午前中は楽しく過ごした。係の仕事で持ち場を離れられないという庸介も、昼を過ぎれば体が空くというので、それからは三人で廻ろうという算段だった。  昼になって庸介の持ち場である案内所をたずねると、彼は快く恵梨とマメを迎えてくれた。 「よくきたね、恵梨ちゃん。マメちゃん」  庸介はマメの頭にぽんぽんと手を乗せて言った。百六十センチぴったりのマメに比べ、彼は百八十センチ近い背丈を持っているので、自然と見下ろす形になる。  恵梨はマメと同じ十八歳だ。今年の春に高校を卒業したあと、進学はせずアルバイトをしている。といっても、アパートの家賃も軽自動車のローンもアルバイト代で賄っているという、なかなか自立した暮らしぶりだ。
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