1章 盲目の彼女

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 安定した正社員を目指さないのは、時間の融通のきくアルバイトのほうがマメの面倒を見られるから。恵梨にとっては、友人というよりも頼りない妹みたいな存在なのだ。  庸介に薦められ、恵梨とマメはいくつかあるパイプ椅子に座った。庸介は放送機器の置いてある机の前で、紙コップに作り置きの番茶を注いでいる。 「大学のお祭りって、高校のよりも規模がずっと大きいから、驚きました」恵梨は言った。 「この大学は特にね。遠くから観光客の人が来たりするから」  庸介は番茶の入った紙コップを恵梨とマメに渡す。 「学校祭に?わざわざ?」 「ここは緑が多くて、学校っていうより森林公園みたいでしょう。都会からくる人なんかに人気があるらしいよ。いやされるとか言って。冬なんか、雪がつもるしね」  恵梨たちの暮らす霜月市は、それなりの近代都市でありながら、北国らしい自然のかおりも残した、よく考えるとふしぎな街だ。
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