1章 盲目の彼女

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「ここは忘れ物とか迷子を預かるのがおもな仕事なんだけど、他にも案内所はあるから、仕事の量はけっこう分散されて楽なんだ。ここは人通りが少ないから特に暇だよ。……ただ、誰か一人はここに残らないといけないからね。もうすぐ代わりの奴がくるから、その後はどこでも好きなところに連れていくよ。まだ疲れてない、マメちゃん?」  庸介は黙って話を聞いているマメに顔を向けた。やさしい表情だ。 「はい。平気ですよ」  その小さな唇に笑みを浮かべて、マメは言う。澄みきった水みたいな声だ。  やわらかそうな長い髪に、日焼けを知らない白い頬。控えめな顔立ち。マメはいかにも「大人しそうな女の子」という容姿をしていて、性格もその見た目に違わずおっとりしている。いつものんびりと微笑んでいて、一番の友人である恵梨も、彼女が怒っているところも泣いているところも見た記憶がない。 「おいしそうなものがたくさんあるし、賑やかで楽しいです。ご近所なのにずっと来たことがなかったけど、庸介さんが招待してくれたおかげで来られました」 「そう。よかった」
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