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「この大学、ムダに広いから移動が大変だったでしょう」
庸介の言葉にマメが頷く。サングラスを外すと、小さな子どもみたいにつぶらな瞳があらわになる。
「はい。うちから一番近い北口に着くのも時間がかかって、恵梨ちゃんの車の中で居眠りしてしまいました」
「そんなにかかった? 車で?」
「渋滞していたんですよ」
恵梨が言ったとき、突然、部屋の扉が開いた。入ってきたのは、春らしからぬ真っ黒いシャツを着た青年だ。
「来たぞ、佐藤」
「やっと来たか、遠山」
庸介は片手を上げて、青年――遠山を歓迎した。
「ずいぶん遅かったな」
「いろいろあったんだよ。それで、手伝いって何なんだ」
「ああ。俺はこの子たちと遊んでくるから、おまえに留守番頼もうと思ってな」
遠山ははじめて恵梨とマメの存在に気づいたらしく、こちらを見た。
年頃は庸介と同じくらい。春だというのに、真っ黒な長袖のシャツを着ている。デニムも靴も、髪までもが黒色。唯一、肌だけが透けるように白い。おそらくあまり外出をしないのだろう。庸介とは友人のようだが、また違うタイプの、どこかとっつきにくそうな男だ。
「……」
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