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「はい。わたし、ちいさい頃に失明して、それ以来だったんです、映画館に入るの。最初は楽しめるのかなって不安だったけど、庸介さんが映画の内容を説明してくれるし、ポップコーンはおいしいし、音がおなかに響く感じが面白くて……。庸介さんといっしょにいると、そういう発見がたくさんあるんです」
「……」
「あ、面白くないですよね、こんな話……」遠山が黙っているので、マメは不安になって言った。
「別に、きみの話に面白さは求めてない」
「あ、そうですか……」
「にべもない」というのはこういう人のことかもしれない。マメは思った。
「遠山さんはどうしてお友だちになったんですか、庸介さんと」
「同じ大学に通っているからだよ。ほかにない」
「でも……この大学って広いんでしょう。何かきっかけが……」
「入学したのは二年も前だ。覚えていない」
「そうですか……」
マメは少し残念に思った。
「わたしは……覚えていますよ。庸介さんと会った日のことも、恵梨ちゃんと会った日のことも。今日のことも、きっと忘れないと思います」
こうして誰かと知り合うことさえ、マメにはめったにあることではないのだ。
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