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プロローグ 黒衣の彼
霜月中央署の刑事課に勤務する相澤は、非番の朝を堪能していたところを急に呼びつけられる羽目になった。市内にある大学で死者が出たためだ。
その大学はまるで巨大テーマパークのように、とてつもなく広い。おまけに今日は学校祭が開かれているとのことで、敷地内は人で溢れている。相澤と同僚の清多は駐車場から現場にたどり着くのも一苦労だった。
現場は林の中の目立たない一角にある、古い木造の三階建の建物。かなり昔に教育学部で使っていた建物らしく、今は倉庫になっているが、この冬には取り壊しになるらしい。相澤にそう教えてくれたのは、第一発見者の遠山という学生だった。
「遠山君、彼の名前はわかる?」
「浅沼です。三年の浅沼裕貴」
「間違いない?」
相澤の問いに、遠山はしっかりとうなずいた。すらりと背の高い、細身の青年だ。よく晴れた春の日だというのに、真っ黒な長袖のシャツなど着ている。
二十歳だというが、雰囲気が妙に落ち着いているのでその五つくらい上に見えた。
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