プロローグ 黒衣の彼

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 同僚の清多が言った。こんな居丈高なもの言いだが、清多はれっきとした女性だ。しかもちょっと美人。 「わかりました」  清多の言葉に素直にうなずく。相澤はいちおう清多の先輩にあたる。プライドがないわけじゃないが、そんなものをいちいち気にしていたら清多との仕事はまず無理だ。階級がすべてだと思ってあきらめるしかない。  相澤と清多は二十六歳で同い年。でも階級は彼女が上で、経験は相澤がちょっと上という、フクザツな間柄だ。なぜそんな二人が組むことになったのかは、上の命令なのでわからない。ただわかっていることは、彼女が配属になってひと月あまりしかたっていないが、彼女と組むのは相澤で三人目ということ。ようするに、扱い辛いということらしい。  相澤は遠山に発見当時の状況を詳しく尋ねた。彼は用事があり朝からずっとこの建物にいたらしい。そして友だちと約束があり、正午ごろにこの建物を出たところで、出入り口わきで死んでいる浅沼を見つけたのだという。 「死因は、解剖してみないとはっきりいえないけど、たぶん内臓損傷によるものだよ。背中をプランターに強打したせいだね」
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