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相澤の三倍くらいの歳の監察医が、浅沼の服を捲り上げて言う。目を覆いたくなるような状態だった。
「状態から見て、死んで二時間半から三時間くらいってとこかな」
「じゃあ、朝の十時ころか」
「それと、一見飛び降り自殺のように見えるけど、他殺の可能性ありだね」
「他殺?」
「建物側に頭を向けて仰向けになっとるでしょ、この仏さん。窓から身を乗り出して何かを見ていたときに、誰かに背中を押されたり、足を持ち上げられたりして落ちた場合、頭から落下するから、頭の重さによって体が空中で回転して、こういう形で地面に叩きつけられることが多い。自分で飛び降りる人は、たいてい足から落ちるから、うつ伏せになるし、もっと足の損傷がひどいはずだよ。覚えときな、お嬢ちゃん」
「お嬢ちゃん」という呼びかたに清多は一瞬眉間にしわを寄せたが、すぐに遠山の方に顔を向けた。
「浅沼君が死んだと思われる時間、きみはこの建物にいたわけだな」
遠山はうなずいた。
「きみの他に人はいたか」
「いいえ。ここは滅多に人が寄り付きません。浅沼が来ていたのも気づきませんでした」
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