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「浅沼君が転落してから、正午ちかくになるまで、ずいぶん発見が遅れたな。落ちたときに音で気づかなかったのか」
「気づきませんでした」
ちょっと怪しいな、と相澤は思った。人が高所から転落すると、地面に叩きつけられたときに、ものすごい音がするものだ。
清多もそう思ったらしい。訝しげな顔で「きみはここで何をしていたんだ」と尋ねる。
「そんなことまで答えないといけませんか」
遠山が端的に言う。この反応はますます怪しいぞ……と相澤は思った。
「ああ、答えてもらいたいな。学校祭初日に、こんなところで一人で過ごしていたなんて、おかしいだろう」
清多も引き下がらない。
遠山は少しため息をついたあと――
「……楽器の練習ですよ」
「練習?」
「ええ。僕が暮らしているワンルームには楽器なんてもちろんありませんし、この建物は古くて使われなくなった楽器がいくつもしまわれているので、いつも借りているんです」
「……ふん」
清多はあまり信じていないようだった。ちょうど楽器の練習をしていて聞こえなかったなんていうのは、ちょっと嘘くさいと相澤も思う。
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