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「それが嘘だと思うなら、僕が使っていた部屋に行って、指紋でも取ってきたらいかがですか。二階の一番端の部屋です。まあ、それで浅沼を突き落していないという証明にはならないでしょうけど」
遠山は両手を広げて見せた。男性の割に節の目立たないきれいな指は、確かに楽器をたしなむ人のそれかもしれない。
「参考のために、きみの指紋は採取させてもらう」
清多は鑑識に頼んで、遠山の指紋の型をとってもらった。
「現場検証だとか、いろいろ時間がかかるのでしょう。もう行ってもいいですか。実行委員の友だちに手伝いを頼まれているんです」
「できたらこの近くにいてほしいんだけどな」
相澤は言った。清多も疑るような目で遠山を見ている。
「別に逃げませんよ。ここのすぐ近くの案内所にいます。何かあれば、そこに連絡してください。では」
「あ、ちょっと待って」
背を向けて立ち去ろうとする遠山を、相澤は止めた。
「知り合いなんでしょう。手、合わせてあげたら」
遠山はプランターの上に横たわる浅沼を一瞥すると、
「必要ありません」
と、それだけ言って、さっさと歩き出してしまう。
「そんな……」
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