知らぬ間に未来のお料理番組にゲスト出演して、T汁を作る羽目になった男の話

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 寝間着姿の彼は困惑していた。無理も無い。何台ものテレビカメラが彼にレンズを向け、百人程の観客も彼の居るステージを見ていたのだから。沢山の照明がステージを照らし、やたらと眩しい。彼の居る所が不自然に明るい分、観客席が余計暗く見える。隣にはやけに若作りをして、化粧の濃い眼鏡をかけた細身のおばさんがおり、目の前には調理台や様々な具材が整然と並べられていた。彼は知らない間にこのような状況に立たされていたのである。安っぽいスーパーで流れてきそうな、明るさが空回りしたようなメロディがスタジオに流れた。 「はいっ!今週もやって参りました。過去の人を召喚してその時代の料理を作る『ノスタルジッククッキング』の時間です」 口笛や拍手が鳴り響く。うさんくさい。どれくらいうさんくさいかというと、実質負担額無料くらいうさんくさい。召喚されたらしい彼は首を左右に振り、パチパチと不安げに瞬きしている。 「心配なさらなくても平気ですよ。あなたは寝ている間に意識だけ未来に来ているのです。『意識だけ』と言いましたが、私達の時代の最新技術で普通に話したり触ったりも出来ますよ。試してみます?」
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