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おばさんが彼に人参を差し出す。不安感も不信感も拭えないが、触らないと話が前に進まなそうだからとりあえず手渡された人参を握った。根菜独特の固さと、ひやりとした冷たさが彼の手に伝わる。
「ね?」
ね?と言われた所で、彼にとっては何が凄いのかも分からない。オレンジ色の、発色の良い人参を触っただけである。温度差と言うか、時代差を感じる。ただおばさんの要求には答えた。こちらから質問しても良いだろう。彼はそう判断した。
「あの……」
「なあに?」
「俺が寝ているって、これは夢ってことですか?」
「あはは!良い質問ですね!あなたにとっては夢です。でも私達はあなたが生きている時代よりもずっと未来の人間なんです。つまり私達にとってここは現実です!」
あははは!と観客が笑う。いやいや、そこは笑う所じゃないだろ。過去の人間を馬鹿にしてんのか、と彼は思う。未来人に対する嫌悪が下っ腹の辺りからじわりと染みでて来た。
「じゃあ私はこれを夢と解釈しても良いんですね?」
「好きにして下さい!でも実際に放送される番組ですので、あまり羽目を外すと黒歴史になってしまいますね!」
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