知らぬ間に未来のお料理番組にゲスト出演して、T汁を作る羽目になった男の話

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また観客が手を叩いて笑う。大げさな演出は今とそんなに変わらず腹が立つ。そして自分達が未来に居ると言うだけで、未来を基準に自身の行いが黒歴史になるという勝手な決めつけにも、彼は怒りを感じた。本来歴史は過去に起きた事なのに、未来で黒歴史はおかしい。しいていえば黒時限爆弾だろうか。思春期に書いた暗黒ノートが、十年後くらいに白日の下に(さら)される感覚に近そうだ。 「分かりました。気をつけます」 「ありがとうございます〜!以前いきなりアカペラで好きな歌を熱唱し始めた女性や、裸になってお客さんに抱きつこうとした男性、開始早々脱糞しようとしたおじいさんがいて困ったんですよ〜」 それはもう立派な放送事故だ。よくそんな番組が今まで続いているものだ。もしかしたら未来の方が放送コードは緩いのかもしれない。それより、みんな夢の中では結構好き勝手やっているらしい。最後のおじいさんは少しボケていたのかもしれないが、彼は眠りの中でさえ放送コードを気にしている面白みの無い自分が、少しだけ嫌になった。せいぜい彼が見る非現実的な夢は、階段を永遠に下り続けたり、空から落下し続けたり、その程度である。
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