第1話 勧誘を断れない

5/15
前へ
/70ページ
次へ
 目に留まったコンビニを見て、私はその足をコンビニへと向ける。  最近発売になった、缶チューハイがどうしても飲んでみたかった。スーパーよりも流行に敏感なコンビニなら置いているだろう。  「いらっしゃいませー」  間延びした店員の声。  花金と言えど、この天気じゃ店員も気合いが入らないらしい。無理もないな、と思うけれど、せっかくの花金。ここでわたしまでコンビニ店員のように気を枯らすわけにはいかない。  陳列されたお菓子の棚を通り過ぎ、真っ直ぐ奥の飲料売り場へと向かう。上から下までざっと見ると、ちょうど目につく位置にそのお目当ての缶チューハイはあった。  「やった」  小さい声でつぶやきながらガッツポーズをする。今夜飲む分と、週末の休みで飲む分と3つ手に取った。私は一度ハマったら繰り返しリピート買いするタチである。  飲みながら食べるのにつまみのチータラを2袋選んだ。それ以外のつまみは興味ないので、わたしはつまみと言えばチータラ一択だ。  その足でレジに向かう。タイムリーにレジは空いていて、スムーズにお会計が済んだ。  バッグからエコバックをとりだし(ちなみにあと3つ持っている)、すばやく商品を詰め込むと、わたしはお礼を言って店を出た。もちろん店員さんからのありがとうございましたはわたしへというよりかは、自動的に発せられた機械の音声のようだった。  なんとも悲しき世知辛い世の中。こんな風になりたくてあの店員だって働いてるわけじゃなかろうに。わたしはコンビニ店員に同情した。 明るい店内とは打って変わって、この数分の間で空が灰色に覆われていた。湿度は上がり、降り続く雨は勢いを増している。トタン屋根を打ち付ける雨音に懐かしさを感じた。  さて、早く帰ろう。家路に向かおうと、折り畳み傘を開いたときだった。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加