才能の花

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 それからしばらくのこと。エヌ氏が店でひまをしていると、あの少女がやってきた。その手には前に来たとき渡した植木鉢が抱えられている。 「おや、おひさしぶりです」  エヌ氏のあいさつに少女は無言だった。うつむいたまま、顔も見せてくれない。  エヌ氏が少女が持っている植木鉢を見る。 「花が咲いたのですね」  そこには小さな白い花が遠慮がちに咲いていた。吹けば消えてしまうようなささやかな花だった。  やっとのことで少女が絞りだすように口にする。 「ええ、咲きました。でも、見てのとおりです。わたしには、あの部屋に飾ってあったようなあざやかな花や大輪の花は咲きませんでした。わたしに才能はありませんでした」 「ふむ、なるほど。期待とはちがいましたか。しかし、結果は受けいれなければなりません」 「はい、これもいいきっかけだったと思います。両親の言うとおり、まともな仕事につこうと思います。時間をむだにしなくてすんだと、そう思うことにします」 「あなたの出した結論なら、だれも文句は言いませんよ。その花はどうします」 「すいませんが処分してください。わたしにはもう必要のないものです」 「そうですか、わかりました」  エヌ氏は少女から鉢を引きとった。 「ありがとうございました」  泣きそうな声でそう言って、少女はふらふらとそのすがたを消した。店にひとり残されたエヌ氏が、少女が残していった花を見てつぶやく。 「せっかくの才能なのにもったいない。この花にはこの花のよさがあるというのに。ああ、繊細できれいな花ではないですか」  エヌ氏が小さな白い花を見つめる。そして、残念そうに口にした。 「しかし、あの少女がこの花はたいしたことないと決めたのだからしかたがない。わたしにはこの花を育てることも、だいじにすることもできないのです」  少女に見放された花はすでに元気なく、枯れはじめているようだった。 〈了〉
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