第三十七章 笑顔は箱の中 二

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 駿河は俺の箱を確認し、素早く隠した。 「ここに、八起の臍の緒があったという事は、地球信仰にも、まだ隠している事があるという事か…………」  もう純血種なども忘れて、普通に獣医を目指したい。 「まあ、今日は帰ろう…………」  確かに、ここにいる理由もない。 「本尾さん、ありがとうございます」 「私は、彼女がどうなったのか知りたいだけだよ」   やっと、本尾の彼女も、失踪ではなく弔いができるという。本尾は、出来る事ならば、失踪の中に、再び会うという選択肢があればいいと思った時期もあったが、長い年月の果てに、ただ弔いをしたいと願うようになったという。 「長く寂しい思いをさせてしまった…………やっと、弔いができる…………」    本尾は、もう地球信仰に用はないので、信仰を辞めると言っていた。 「痛くて怖くて、辛かったかもしれない。助けられなくて、ゴメンと、やっと謝れる」  弔いとは生き残った者が、これからも生きてゆく為に必要な儀式で、新しい一歩が踏み出せるきっかけになる。やっと彼女が過去になり、本尾の表情も明るくなった。 「家まで送ってゆくよ」  しかし、俺には新しい謎が増えてしまった。 「ありがとうございます」
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