「あずきとエマ」

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「あずきとエマ」

 どこからともなく、声が聞こえた。  真っ暗な意識の中、耳をとろけさせるような美しい声だけがこだまする。 「神は言っている……ここで死ぬ定めではないと…」  うるさい……誰? というか何? 私、死んじゃったの?  謎の囁きと甘い香水の匂いとともに、私の意識はゆっくりと浮上した。  眼球が乾燥しており、何度瞬きしても目が思うように開かない。 「……あ、Bonjour! "あずき"」  あずき? そんなやついたっけ…………ん?  やっと視界が安定してくると、晴れた空を透かしたビー玉のように真っ青な瞳が、カメラのピントを合わせるように、だんだんと見えてきた。  咄嗟に言葉が出ず、私は口をパクパクさせる。  吸い込まれそうな瞳もそうだが、御伽噺にでも出てきそうなほど美しい金髪は、煌々と眩しい明かりから私を隠すように布団の上に垂れている。そしてなにより至近距離にある整った顔には、同性の私でも見入ってしまう。  金髪の美少女は私の反応を見て、耐え切れなくなったようにクスリと微笑みをこぼした。 「やっぱり、寝起きって息がクサイね!」 「……え?」と思わず聞き返すのも無理はないはず。  目を覚ましたら見知らぬ美少女がキスするんじゃないかってレベルで顔近づけてて、さらに息が臭いなんて言われたら、誰だって驚くだろう。  どっからどう見ても日本人じゃないのに日本語が上手い。なんかの魔術だろうか……?  あたりを見渡し、ようやくここが自室のベッドであることに気づいた。  私の部屋で何してんの、この人? というか……。 「誰、ですか?」  やっと出てきた言葉は、思ったよりも小さく、そして掠れていた。  
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