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「私、エマ・ブランシェ! 今日からこの部屋に住む見習い魔女!」
「はぁ……どうも」
向かいに座っている金髪の美少女は、そう言い放つと、優雅にティーカップを口元へ運んだ。淡麗な容姿に、紺の腰巻きとふわっふわとした白いシャツワンピースも相まってか、茶を啜るだけでも絵になる。
ん……この部屋に? このアパートに、じゃなく?
眉が八の字に歪みそうになったところで、リビングのドアが開いた。
「ルームシェア、だ」
「て、店長!?」
突然現れたズーシェンに、私は危うく椅子から落ちかける。
「聞いてないんですけど、ルームシェアなんて……」
「ごめん言ってない。完っ全に言い忘れてたが、お前たちは今日から、互いに切磋琢磨するライバル兼同居人になりました」
潔いんだか、どうしようもない人なんだか。
ため息をつく私の肩を、ズーシェンが軽く叩いた。
「ところでお前、エマの魔術食らって黒焦げになったって聞いたけど……大丈夫か、死んでないか?」
「えっ、死ぬ……え?」
口を開けて固まる私に、ズーシェンは眉をひそめる。
「覚えてないのか?」
そういえば意識を失う前、誰かが何か叫んでたような……。
私はハッと顔を上げ、大声で立ち上がる。
「あの爆発の犯人、この人だったんですか!?」
ズーシェンはやかましそうに頷いた。
エマはと言うと、恥ずかしそうに頬をポリポリとかいている。
「えへへ、つい火力上げすぎちゃって……ごめんね! けど、すぐに私が治したしチャラだよね?」
「んなわけないでしょうが……」
それはただの証拠隠滅と言うんだよ。
「というか、ひったくり犯は……?」
私の問いにエマは「えっとね……」と逡巡すると。
「どっか行った」と、首を少し傾けた。
「どっか……?」
首を傾けたいのはこっちなんだが……まさか、こいつ犯人を……!?
冷たい何かが心臓を突いたように、私は硬直する。
するとズーシェンが興味なさげに欠伸をして、こちらを向いた。
「ああ、それな? そいつならさっき、"協会"の奴らが連行して行ったぞ」
"協会"って、たしか魔術世界を統治してる組織だったっけ? 何はともあれ、死人が出てないのには安心した。
「よかったぁぁぁぁ……」と安堵の笑みを浮かべつつ、私はすぐさまエマの頭をひっつかみ、拳でグリグリと挟んだ。
「どっか行った、じゃなくてちゃんと説明しようねぇぇ?」
「いたたたっ! 満面の笑みですることじゃないよ、これっ……」
しばらく拳をドリルのように回していると、ズーシェンの咳払いが響いた。
「よし、仲が良いみたいで大変結構!」
「何がよしだ、全然仲よくないんですけど?」
「えへへ」とエマが私の胸に頭を預けて笑う。
お前ちょっと黙ってろ……と、私は拳の力を少し強める。
痛がるエマを他所に、ズーシェンは至極真剣な面持ちで言った。
「病み上がり、もとい治りあがりで申し訳ないんだが……早く、ご飯作ってくんない?」
その言葉に賛同するようにズーシェンの腹から、きゅるるる〜と情けない音が鳴った。
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