「あずきとエマ」

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「そんじゃ、アタシそろそろ帰るわ」  9時を過ぎる頃になると、ズーシェンがそそくさと席を立った。  エマが「ええええ〜」と子供のように奇声を上げる。 「ずっさん、もう帰っちゃうの?」 「だってアタシ、11時には寝るし」  そう。このズーシェンは、ズボラでいいかげんなくせして、休日の小学校低学年並みに早寝早起きで、早朝のランニングも欠かさないほどの健康バカなのだ。  別に健康であろうとする姿勢が悪いというわけじゃない。ただ、師匠としての仕事もちゃんとしてほしい。  背中に張り付いたエマを引っぺがしたズーシェンは、「ごちそうさん」と部屋を出て行った。 「あ〜あ、行っちゃった……」  エマはやや紅潮した頬を膨らませて、ソファの背に顎を乗せる。 「どうせ明日も会えるんだから良いでしょうが」  どうやら私のルームメイトは、堪え性のないやつらしい。  コップの水を飲み干した私は、食器を持ってキッチンシンクに立った。 「そうだけど……あ! じゃあ、あずきが代わりに……」  エマが言い切る前に、私は「却下」と遮る。 「それより、お皿片付けるの手伝ってよ」  どうせ駄々をこねるに決まってる、と思っていたが、返ってきた言葉は意外なものだった。 「あずきって顔怖いのに、皿の前に"お"って付けるよね」 「それが、なにさ」  顔怖い、に引っかかりつつ首を傾げると、エマはなぜか照れ笑いを見せる。 「えへへ、なんか可愛くて」 「はぁっ!?」と思わず大きな声が出る。 「……いいから、お……じゃなくて、皿片付けて!」  行動パターンが全く読めん……犬じゃなくて黒光するGか、こいつ。  顔に昇った熱を逃すように、私は食器を洗いまくった。
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