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私たちは初めて一緒にお風呂に入った
たくさん身体を重ねてきたのに
お互い初めて裸をちゃんと見たかもしれない
今まではお互い別々にシャワーを浴びて
真っ暗な中で、私は健人君の代わりに抱かれていたから
女の体を見せる必要がなかったし
私も女の体を見せる事に抵抗があったから
でも今日は最後だし
女の、長澤楓として陸くんといたかった
陸君も私の気持ちを汲んでくれたんだと思う
2人で向かいあわせで大きなバスタブの中に入りながら
笑いながら過ごした
バスローブを着て
大きなベッドに2人で仰向けに大の字になり
将来の話をした
私はヨセミテ渓谷を制覇するフリークライマーになるために旅立つ話を
陸君は大学でゲームプログラマーの勉強をして
将来自分のゲームを作りたい、そんな話をした
小さい頃、健人君に
『陸はさ、頭がいいからゲームプログラマーになって、俺たちがやりたいゲーム作ってよ!俺は営業マンになって陸が作ってくれたゲーム、売るから!』
そう言われた時から陸君の将来は決まった
健人君の話をしようとしなくても
夢の話にまで健人君が絡んでくる
そう、2人は過去も未来も固く求めあっている
一緒にいるのが当たり前で
お互いを想うのが当たり前なんだ
私はそんな2人が羨ましくて
疑似恋愛をした気でいたのかもしれない
───最後にシとく?
賭けだった
冗談めかして言ったその言葉は本気だった
同時にそれは
健人君の代わりにではなく
長澤楓として、ひとりの女性として
セックスするかどうかと陸君に問いかけたようなものだった
────やめときましょう
そう言って、陸くんが ふはっと笑った
そう、彼は私を1度も求めていない
陸君はブレなかった
それでいい
私はスッキリして明日旅立つことができる
だよね と舌をペロッと出して笑った私を見て
陸君は私を優しく抱きしめて おでこにチューをした
───楓さんて、稀に見るいい女だよね
──なにを今更 笑
────今までありがとう。俺ちゃんと向き合うよ健人と。
楓さん、あっちでもお元気で
陸君、
短い間だったけど人を好きになるということを教えてくれてありがとう
私、前に進めそう
そう心の中で陸君に伝えた
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