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「あれは結局、なんだったのさ」
「水の復活をよく思わない物ですね」
変声期を迎えた少年のような声だった。発音に外国を思わせる独特の訛りがあった。
「おそらく魚の奴らでしょう。生臭い匂いがしましたし。私がこうして水を組み立てていることを知って、慌てて陸に上がってきたのだと思います。うまく体を作れなかったので、あんな目立つ格好をしていたのでしょう」
砂浜にトレンチコートは流石に異色だった。肌も顔も隠せるとなるとああするしかなかったのだろうが。
「今頃奴らは、あなたが破壊した私の家を見つけるでしょう。そして、その中に水の塊を見つけるはずです。私が吸い取った、残りカスのような物ですが」
パシャンと水槽の中でクラゲが跳ねる。数時間前まで干からびていたとは思えないほど元気は奴だった。
クラゲが言う。
「手伝っていただけて助かりました。これで、あいつらは私が死んだか、せっかく集めた水の塊を放置して逃げたと思うでしょう。いやー、三日間天日干しされた甲斐がありました」
「あれを見た時、僕は本当に死んだと思ったけど。水の塊を吸って行くのは見えたけど、それでも生き返るとは思わなかった」
「死にませんよ、水の復活を見ずして死ねますか」
水槽の中で触手が何本も動き回り、バラバラになった水の塊を再編成して行く。あのテーブルに比べると水槽は狭いので、小さな塊をいくつも作って水槽内に転がしておくのだそうだ。
クラゲの水槽の隣にはバケツが置いてある。今は空っぽの状態だが、その中に、今はまだくっつきそうにない水を触手を使ってそこに捨てて行くのだそうだ。僕の仕事は、それを捨て、新しい水を水槽内に補充することである。
「準備期間三日じゃ、このくらいの設備が限度だよ。水槽だって、予算的にも部屋の広さ的にもこれが限界」
「全く問題ありません。むしろここまでしていただいて嬉しいかぎりです」
声を聞くかぎり、世辞じゃなさそうだ。一安心する。
「さあ、これから一緒に頑張りましょう」
クラゲが言った。ああ、僕はそう頷いたが、正直そんな物はどうでもよかった。
「それじゃあ、僕はもう寝るよ、おやすみ」
「ええ、おやすみなさい」
電気を消す。暗闇となった部屋で、声がした。
「一つお聞かせください。家の中に、将来、地球の支配者になる物がいる気分はどうですか?」
僕は答えなかった。
水の復活だとかそんな物、興味すらない。
また水の塊さえ見られれば、僕はそれで充分なのだ。
ーー END ーー
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