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すっかり夜になった頃、僕たちはそこに着いた。
砂浜の終わりに隠れるように、流木とトタンを合わせてできた小屋らしき物があった。いや、小屋なんて呼んでしまっては、小屋の方に失礼かもしれない。幼稚園生が段ボールで作った秘密基地と大差ないほどみすぼらしい建屋が、そこにあった。
「入ってください」
そう言われれるが、入り口なんて物はないに等しい。トタンとトタンの隙間を潜って中に入る。うっかり手で壁を押そう物なら、すぐさま倒壊してしまいそうだ。
入り口は狭かったが、中はそれなりに広かった。6畳くらいあるだろうか。だが、お世辞にもいい部屋とは呼べそうにない。
下は砂浜のままだし、流木とトタンの壁は隙間だらけで、スリットのようになっている。天井だけは一枚のトタンでしっかりとしているようだが、赤錆が塩撒いたように僕の頭上に広がっているのでなんだか落ち着かない。電気なんで通っているわけもなく部屋は薄暗かったが、壁から入る月光でなんとか視界は確保できていた。
そして、その場所の中心で、それは月光に照らされて輝いていた。
「何もない家で申し訳ありません。あなたにお出しできるお茶も、くつろいでいただく椅子もありません。私の持ち物はあれだけなのです」
家と呼んだ中心に丸テーブルが一つ置いてあった。海の家で使われていた物だろうか。白い組み立て式のテーブルの家に、水が、組み立てられている。
「手は触れないようお願いしますよ。崩れてしまいますので」
そう言われて、僕の右手が前に出かかっていたことに気が付く。足もさっきより数歩前に進んでいた。
「これは、なんだい?」
水に問うように訊く。妖しいそれに魅了され、自然と笑みがこぼれていた。
「水です。あなた方が普段飲まれている水、その本当の姿です」
「本当の姿?」
いつの間にかそいつは地面に置かれた流木の上にいた。どこかから壁の一部が崩れたのかと思っていたが、もしかしたらそれは椅子だったのかもしれない。
「地球上に存在する水は、かつて、一つの生命体でした」
「生命体……」
「今は原型など想像もできないほど粉々に崩れてしまっておりますが、パズルのように正しい場所に正しく配置すれば、ちゃんとくっつくのです。目の前の、それのように」
水でできた珊瑚のような物がテーブルの上に置かれていた。
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