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かつての巨体のひとしずく
浜辺に座りながら海に陽が落ちていく様子を眺めていると、「ちょっといいですか」と声をかけられた。変声期を迎えた少年のような声だった。発音に外国を思わせる独特の訛りがあった。
声の主は、僕のすぐ隣にいた。視線を下げると目があったような気がした。
「ああ、ごめんなさい。驚かせてしまいましたかね。ですが、どうしてもそれが欲しくて、つい声をかけてしまいました」
「……それ?」
「ええ、そのペットボトルの中身です」
僕の足の間に埋まっているペットボトルのことだろうか。さっき飲み干して、手遊びに回したり、埋めたりしていた物だ。半分埋まっていたそれを掘り起こし、砂を払う。なぜだか知らないが、その様子をハラハラと見守っているような気がした。
「ああ……慎重に、慎重にお願いしますよ……」
「これ、工作にでも使うのかい?」
「いえ、ペットボトルには興味が……ああ! 逆さにしないで下さい!」
大声に驚き、慌てて飲み口を上に向ける。びっくりした僕を見て、そいつは慌てた様子で謝ってきた。
「も、申し訳ありません、つい熱くなってしまいました……ですがやっと見つけたのです」
「見つけたって、これ、そこのコンビニで買った物だけど。ひょっとして、喉でも乾いてる?」
「いえ、潤っております」
まあ、見た感じそうだろう。それに、ペットボトルの中身はもう空だ。さっきこぼすなと怒鳴られたが、あと一滴あるかないかくらいしか残っていない。これで渇きを癒すには無理がある。
「その一滴が欲しいのです」
ペットボトルの底を覗き込んでいると、そいつが言った。
「あなた……今、お時間ありますか?」
「あるよ」
ちょうど陽が落ちて、これから夜に向けて空が暗くなろうとしていた。
「でしたら、お見せしたい物があります。ついてきてください」
それはちょっと難しいな、と思った。
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