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「その後はどうするの?」
予想していない言葉に思わず変な声が出る。その後というのはどういうことだろう? 首をかしげる僕を見て彼女が話し続けた。
「この花夏に咲くんだよね? それを一緒に見た後は? 秋は、冬は?」
それって……。我慢できずに緊張していた口が綻ぶ。口をむっと噤んだ彼女の言葉でようやく理解した。肌寒かったのに胸のあたりが温もりで満たされていく。
「新しい花を! 秋には秋に咲く花を、冬には冬に咲く花を贈ります。だから夏が終わってからも、それからも僕と一緒にいてください」
彼女がふふふと笑った。そして恥ずかしそうに小さく首を縦に振った。
私は嬉しくて涙がこぼれそうだった。しかし、潤んだ瞳を拭ってしっかり彼を見る。初めてあなたが私を好きと言ってくれた日を目に焼き付けていたかった。私は鉢植えの縁に書いている花の名前を見た。
『シオン』。確かに私が大好きな花だ。紫の小さな花が咲いて可愛らしい。花言葉は「君を忘れない」だ。そそっかしいあなたが忘れないか。できるのだろうか、少し心配だ。だってあなたはきっと、私との本当の初対面をこれっぽっちも覚えていないのだから。
私は鉢植えを大切に抱えた。花が咲くころにあなたに教えよう。あなたは私のヒーローだって。
春風に揺れて葉がほほ笑むのように揺れた。
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