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「フナオさん。その金魚を食べてもらえますか」
「え......?」
何を言われたのかも理解できない彼女が、僕の言葉の続きを待つ。不安と驚愕が入り混じったその感情の渦にすっかり彼女は飲まれていた。言葉を理解できない金魚は、元気に泳ぎ回り餌を求めて口をぱくぱくしていた。目はすっかり大きく膨らみ、左右に歪んだ球体をたたえていた。
「食べて」
僕は繰り返す。恐怖が彼女を支配する。
「無理に決まってるでしょ......?何を言っているの......?」
何度繰り返しても同じ表情しか見せない彼女に、僕は苛立ちが隠せなくなっていた。気がつくと貧乏ゆすりが激しくなり、拳を強く握りしめていた。目が潤み、泣きそうになる彼女を見ていると、僕は愛おしさを覚えていた。怒りの感情はすぐさま冷めていった。僕は拳を解き、しゃがんで彼女の髪をかき分けた。手をかざすとびくっと避けようとする彼女の頬を優しく撫で、口付けをした。固く閉ざされたその唇をこじ開けるように舌を滑り込ませた。彼女は嫌がり、首を振りながら僕の手と顔を跳ね除けた。
「やめてよ!何してるの!?」
驚きながら息を荒げている彼女を見て、僕は完全に、自分自身が制御できなくなった。
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