金魚鉢

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   昔から気が弱く、周りに流されがちだった僕には特にやりたいこともなく、就職するのが容易、というだけの理由で今の職場を選んだ。面接では簡単な質問と意気込みを聞かれる程度で、実際この営業の仕事に入社するのは極めて簡単だと言えた。問題は入社後である。初めこそ新入社員として重宝され、大事に育成もされたものの入社後半年を過ぎる頃にはすっかり見放されていた。要領が悪く愛想も悪い僕に根気強く優しく教えてくれる人間などそうそういるはずもなかった。  この会社では数年に一度ずつチームの再編成がなされるが、チームが発表され僕の名前を見るや否や、同じチームになった人間はため息を吐く。あるいは良いスケープゴートが身近に出来たという安心感からか、成績の冴えない人間は胸を撫で下ろしたりもする。つまり僕は、いわゆるお荷物、厄介者といった類の扱いを受けていた。  そして今年の四月に配属されたチームは、自分を含めて五人のチームであった。僕の無能を知っての采配か、チームリーダーにはこの会社切っての優秀な成績を誇るフナオさんという女性が任命されていた。彼女はいわゆる姉御肌というやつで、困っている人間がいたら真っ先に声を掛け、サボっている人間がいたら厳しく注意するその姿に、憧れを持つ女性社員は少なくなかった。ルックスもきりっとして綺麗で、美人の類であったため男性社員からの人気も上々。社内の人気者という言葉がよく似合う女性だ。そんな流石の彼女もとっくに僕には愛想を尽かし、仕事上の連絡を除いて、ほとんど苛立ちの捌け口としてしか声をかけることもしなくなっていた。
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