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「オオイデくん」
何度も聞いたことのあるこの話し掛け方。フナオさんが僕の名前を呼ぶときは大抵ため息混じりで、いつもよりワントーン低い声を出した。
「この書類に書いてある契約内容、お客様が受けた説明とは違うものだってお怒りの連絡があったのだけど」
「はい」
投げるように渡された書類を慌てて確認する。確かにその書類の内容は、先日訪問した家のご主人に説明した内容とは異なっていた。入力した際に間違えたのだろう。こういったミスは新しいチームになってから三回目になる。
「はいじゃなくて。あなたがしたミスを何で私たちが尻拭いしなくちゃならないわけ?何回も何回も同じことを繰り返さないでもらえるかしら」
「......すみません」
僕はフナオさんの顔を見ることもできず、おどおどと下を向きながら謝罪をした。そんな態度に彼女は更に苛立ったのか、目の前で大きなため息を吐くと訂正後の書類を僕のデスクに投げつけるように置いた。ホチキスで纏められていなかったその書類のうちの一枚が風に舞って床に着地した。彼女は踵を返して音を立てながら自分の席へと戻って行った。
彼女が自分の席へと戻ったのを確認すると僕は再び椅子を転がし、鈍い痛みのある腰を曲げて落ちた書類を拾い上げた。こんな調子で、仕事中はいつも下ばかりを見ていた。
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