金魚鉢

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 とりあえずシャワーくらいは浴びようと思い立ち、前日に使って干しておいた、まだ少し湿ったタオルと下着を手に持って風呂場へと向かった。熱いお湯で体を流していると、今日の疲れが少しは解消される気がした。排水溝に抜け毛が溜まり、不細工な音を立てながら水を詰まらせている。赤カビの出来た床を見る度に掃除をしなければならないと思うが、なかなか行動には移せない。  ビチャビチャと床にお湯を飛ばしながら風呂から上がり体を雑に拭き、下着とスウェットを着た。冷蔵庫からビールを取り出し、その横にかけたビニールからカップ麺を出してやかんにお湯を沸かせる。もはやルーティンとなりつつあるこの自堕落な食事は、確実に体を蝕んでいた。胸や腹はたるみ、最近では服の上からもそのふとましいシルエットが分かるようになった。掃除や食事がそうであるように、僕の中で自分自身の生活の優先順位がどんどんと下がっていることには気が付いていた。  沸いたお湯をカップ麺に注ぎ、蓋をすると金魚鉢のある机に置いた。ビールをひと口飲み、金魚にも餌を与えた。フケが落ちるように水の中に沈んでいく餌を金魚がのろまに追いかける。結局床に落ちた餌を食べる金魚は、何故だかとても惨めに見えた。  カップ麺を啜り、ビールを飲みながらテレビの電源をつけた。チャンネルを変えると、健康に良い食事法や恋愛ドラマ、旅番組などの映像が目まぐるしく入れ替わった。どの番組にも興味は湧かなかったが、恋愛ドラマに出ている綺麗な女優に目を惹かれ、それを見ることにした。ストーリーをスマートフォンで調べると会社でしっかり働く女性が、田舎にある実家に帰りそこで幼馴染の男性と再び出会い、恋をするといった内容のものらしい。少し厳しそうな顔付きをしたその女性に僕はフナオさんを重ねていた。フナオさんの普段見せない表情を頭の中で描くと、心臓が高鳴る感覚があり、性的な興奮が脳を支配した。
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