第一章 菜苗編~軽い気持ちと重い代償

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 ***  郁さんの引っ越しの理由をもっと真剣に考えていたら、違う未来があったのかもしれない……と思う。  でも、誘いに嬉しくなった私は、親に、友達に呼ばれたと言って、しろちゃんの家へ行くと、そのまま初めて泊まった。  すぐに気づくことになった。何もできないし、しない男だと。毎日行くようになると、しろちゃんは平然と私に家事をさせてきた。  「お、待ってたぞ」  彼の家に行き始めてから一か月近くになるけど、私は訪問が面倒になっていた。  最初の二、三日は、ゆっくりすればいいと言ってくれたのに、一週間もしないで、私に家事をしてほしいと頼むようになった。  私も数日は張りきったけど、すぐに嫌になってきた。仕事帰りにしろちゃんの家に行って家事をする。週末は泊まるけど、次の日も仕事なら、実家暮らしの私は、遅い時間でも帰らないとマズい。初めて泊まった時に親に怒られたから、きちんと帰っている。だから全然疲れが取れない。  「ねぇ、金曜だから疲れてるんだけど」  家事をしたくないと遠回しに言ったのに、しろちゃんにはまったく通じていない。男性は察するのが苦手というけど、この人は特別に鈍感だと思う。
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