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 会計を済ませた後、道路を挟んで向かい側の薬局に処方された薬をもらいに行った。処方箋を提出して、足腰の弱っている祖母を待合の椅子に座らせる。  チヨちゃんは、爪を噛みながら、決して広くない薬局内を、のしのしと練り歩いた。弛んで丸まったトロールのような体つきは、決して高くない身長とは裏腹に空間を圧迫していた。 「ジュース」  突然、調子外れな甲高い声で、商品棚を指差しながら、チヨちゃんが叫んだ。 「ジュースがあるよ!」  続け様に叫んだ。僕は、眉をひそめる他人の目線から逃れるように、慌てて知世乃のそばに寄った。 「チヨちゃん、声を小さくして」 「あたし、声を小さくする」  決して小さくない声でそう言った。 「ジュースがあるから」 「ジュースが飲みたいの?」 「りんご」 「買ってあげるから」  薬局らしい低糖質、低カロリーを謳ったりんごジュースを商品棚から取り出して、レジカウンターに置いた。  チヨちゃんは、爪を噛みながら、祖母が座っているところに戻った。  僕は買ったジュースをチヨちゃんに差し出した。肝心のチヨちゃんは反応せずに、頭をぼりぼり掻いている。祖母が、申し訳なさそうに受け取った。 「ああ、悪いね、健太……。知世乃、ありがとうっていいなさい」 「あたし、けんたにありがとうっていう」 「健太の方を向きなさい」 「けんたくん、ありがとう」  自分の爪をいじりながら、チヨちゃんは、お礼の言葉を呟いた。その口をついて出た言葉の、なんと無味乾燥な響きだろうか。幼い頃に飼っていた金魚に餌を与えた時のことを、ふと思い出す。金魚は、天から餌を与える存在に想いを馳せることはないし、感謝の念など感じることはない。  ありがとう。  チヨちゃんは、その言葉の意味を理解することは決してないのだろうな、と思った。
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