2人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
いよいよだ。
田口正治は、分娩室へと案内された。
「い、いったあああああああい」
想像を絶するような、悲痛な叫びが聞こえてきた。
正治はその声に聞き覚えがあった。
妻の美希の叫び声だった。
分娩室の扉を開けると、横たわった美希と助産師らの姿があった。
「もう子宮口10センチ近く開いてるからね。もうすぐ会えるよ」
おっとりして、落ち着いた様子の助産師とは真逆に、美希は呼吸を荒くして、ぐったりしていた。
「も、もう、切ってください」
「切るとね跡が残ったりもしちゃうから。なるべく切りたくはないな」
美希の腰をさすりながら、助産師が冷静に答えた。
「きた・・・・・・ふっ、んんんんんんんーー」
顔をくしゃくしゃにしていきむ姿を、正治はただただ見守ることしかできなかった。
「んぎゃあ、んぎゃあ」
午前10時前、正治は初めてその声を聞いた。
ドラマやアニメで聞く声そのものだと思った。
青紫色の肌をした待望の第一子が、目の前で取り上げられた。
「おめでとうございます。かわいい女の子です」
正治の目からどっと涙が溢れた。
「美希、美希。ありがとう、ありがとう」
横たわる妻に覆い被さるようにして、お礼を言った。
美希は正治の腕を握り、涙を流して頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!