91歳の娘

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いよいよだ。 田口正治(たぐちまさはる)は、分娩室へと案内された。 「い、いったあああああああい」 想像を絶するような、悲痛な叫びが聞こえてきた。 正治はその声に聞き覚えがあった。 妻の美希(みき)の叫び声だった。 分娩室の扉を開けると、横たわった美希と助産師らの姿があった。 「もう子宮口10センチ近く開いてるからね。もうすぐ会えるよ」 おっとりして、落ち着いた様子の助産師とは真逆に、美希は呼吸を荒くして、ぐったりしていた。 「も、もう、切ってください」 「切るとね跡が残ったりもしちゃうから。なるべく切りたくはないな」 美希の腰をさすりながら、助産師が冷静に答えた。 「きた・・・・・・ふっ、んんんんんんんーー」 顔をくしゃくしゃにしていきむ姿を、正治はただただ見守ることしかできなかった。 「んぎゃあ、んぎゃあ」 午前10時前、正治は初めてその声を聞いた。 ドラマやアニメで聞く声そのものだと思った。 青紫色の肌をした待望の第一子が、目の前で取り上げられた。 「おめでとうございます。かわいい女の子です」 正治の目からどっと涙が溢れた。 「美希、美希。ありがとう、ありがとう」 横たわる妻に覆い被さるようにして、お礼を言った。 美希は正治の腕を握り、涙を流して頷いた。
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