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誕生日祝いは無事に終了して、当事者である奈々子も巻き込んで4人で後片付けをして。
明日も仕事だという麻帆と孝太朗は、先に脱落して部屋へと戻って、まだ飲み足りない俺は、指定席でもある縁側で月明かりを眺めながら、未開封のワインに手を付け始めていた。
「珍しいね。ここで飲むなんて」
背後から声を掛けてきたのは奈々子だ。
振り返らずとも、それくらいは分かる。
「まあ、たまにはな……」
ここに住み始めたばかりの頃は、実家に似たこの縁側が気に入って、居座ることが多かった。
最近は忙しくて、そんな悠長な時間も取れずにいたけれど。
「奏佑、隣いい?」
「……どうぞ」
「私も、それ貰っていい?」
「いいも何も、お前の為に買って来たんだから」
そう言って、奈々子が手にしていたグラスに、ワインを注ぐ。
外は少し蒸し暑くて、すっかり夏の夜の空気だ。
羽織っていたパーカーを脱ぐと、爽やかな風が袖を通って心地よい。
微かに聞こえる虫の音に、重なるようにして奈々子の柔らかい声が届いた。
「麻帆、良かったね」
「……ストーカー専務の件?」
「当然。海外に飛ばされたなんて、ざまあみろって感じ。理解ある上司の人で良かったよね」
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