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コーヒーを飲み終えて、先に立ち上がったのは私。
カップを洗い始めていると、孝太朗も空になったカップを片手に隣にやってきた。
流水の音に紛れて、彼の低い声が聞こえてくる。
「そうだ……お前、今日ヒマ?」
「……どうして?」
「アクアリウムの無料券もらったから、一緒に行かない?」
その時、手にしていたカップを、水を溜めた洗い桶に落としてしまう。
決して、彼の言葉に動揺したわけではない。
本当、ただ単にタイミングよく手が滑ってしまっただけ。
何事もなかったかのようにカップを取り、しっかりと水で泡を流して、水切りラックへと置く。
「……彼女と行けばいいじゃん」
「夜まで撮影あるんだって。使用期限が今日までなんだよ」
「なら、他の友達とか……奏佑はどう?」
「男とふたりで行くような場所でもないだろ」
そう返事をして彼は、私が洗ったカップの隣に、同じように洗い終えたカップを置く。
確かに、男同士でアクアリウムに行く人は、統計的に見て少ないかもしれない。
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