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「クラウディア。君を愛しているんだ。どうか私の妃になって欲しい」
悪役令嬢に婚約解消を告げ、私が承諾したことを確認した王子がクラウディアに跪き愛を誓う。
ここが乙女ゲームの世界だと、自分がヒロインの恋のスパイスに転生したのだと、思い出してから何度も脳内再生した名シーン。真実の愛に気づいた王子とヒロインが結ばれる最高に盛り上がる場面。
固唾を呑んで見守っていると、紫水晶の瞳で王子を見下ろしていたクラウディアがちらりと私に視線を向けた。
(私のことなら気にしないで親友! どうせ婚約破棄されてもこのゲームの悪役令嬢は不幸にならないし! だから、貴女は貴女の選んだルートを満喫してちょうだいっ!)
そう熱い想いを込めて力強く頷くことで意思表示をする。本当は親指も立てて見せたいところだが、ダンスパーティー最中の婚約破棄ということで皆の注目を集めてしまっているため踏みとどまった。
私の気持ちが伝わったのか、跪いたままの王子にクラウディアが艶然と微笑みかける。
(キタキタキタキターーーーっ!! ここで劇中歌が流れるんだよ~~! マジあの曲、神! 名曲! カラオケで何回も歌った!! ってダメダメ今は目の前でリアルに起こってるイベントを目に焼き付けないと! さぁクラウディア、私に遠慮なんてしないでブチューっとやっちゃってちょうだいブチューっっ!と!!)
「婚約中に他の女に粉かけた挙げ句、婚約解消した途端にその相手の前で求婚するとか頭腐ってらっしゃるのかしら? とんだクソ野郎ですね。虫酸が走るわ」
そうそうブチューっと! ブチューっ!
………………え?
「え?」
「……え?」
「「「え?」」」
広いパーティー会場がシンと静まり、クラウディア以外の全員の口から間の抜けた声が漏れる。
「貴方みたいなゲス、今後同じ空気を吸うのも遠慮したいので、わたくし今日限りで自分の国に帰らせていただきますね。短い間でしたが皆様ごきげんよう?」
そう優雅に笑うクラウディアは、こんな時だと言うのにとてもとても綺麗だった。
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