第四話

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第四話

 哲也と約束した店は路地裏の小さなバーだった。ぱっと見、店だとはわからない外観をしていて、一見さんお断りらしい。季節ごとに変わる花壇の花は毎度、感心するほど美しい。メシはうまいし酒もうまい。店主の坂本 茂雄さんの作るカクテルはやめられなくなるほど甘くとろける舌触りと、滑らかな味で女性客にも人気らしい。俺が1番好きなのはやっぱり冷やしたビールだがメシで言うならここのオムライスだった。ケチャップが手作りでトマトがゴロゴロと入っていて、卵はフアフア、嫁に来て欲しいほどの腕前だった。 「着いたか、、。」 店前で立ち止まり、いつも通り周りを見渡すと朝顔が咲いていた。可愛く小さな花をつけている。愛らしさに思わず微笑んだ。  ガラガラガラッ 引き戸を開けるともう哲也が出来上がっている。約束よりも早くきて初めていたようだ。カウンター席で片手に焼酎を持って動かない、多分寝ている。 「あー♡しょーちゃん、いらっしゃーい。」 小さく手を振りながらママの夏子さん(仮)が巨体を近づけてきた。 「あぁ、まま、ひさグホッ、、、」 挨拶をしようと手を振り返した瞬間、体が宙に浮き、脇腹あたりに強い衝撃を感じた。フリフリのエプロンでは隠しきれない筋肉が血管を浮き出させながら脈打っている。 ーぐるしい、、死ぬー、、。 「!!!まっ、、ま、離してくれ、、、」 苦しげに声を出すと締め付けられていたのが嘘のように肺に空気が入ってきた。ママを見上げるとウィンクしながら唇を尖らせポーズを取っている。 ーなんかムカつくわ、、今のはなんだ?ハグか?殺しにきているのかと思った、、。 ぜぇぜぇと息を荒立てながら、おぼつかない足で哲也の横に座った。 「もぉう!しゅーちゃ早く来ないから、馬鹿が飲み過ぎちゃったわよー、、。」 腕を組みながら頬に空気を溜めて怒っているように見えた。 「こいつ、何かあったんですか?」 俺は哲也の髪の毛を引っ張りながら聞くとママよりも先に喋り出した奴がいた。 「晴海に振られたんだ〜、、うぁぁん、、。」 哲也は瓶をバンバンと叩きつけながら俺に抱きついてきた。 「、、、振られちゃったんだ、カーワイそう。」 ママは棒読みで同情しているようだ。後ろを振り向き肩を震わせながら笑っている。普段はママを哲也が口で任していたが、今日は反対になっている。楽しそうに次の酒を準備しているママを見ていつもの仕返しだろうと思った。 ーまったく、この人は、、。 「はぁー、お前それで俺を呼んだのか?」 「しょーたーうぁーぁ、、、ゲホッゲホッ、、。」 泣きすぎてむせている哲也を見て、ママは大爆笑している。 「笑ってないで引き離すの手伝ってくださいよ、、。」 助け舟を頼んだが港には暇な船がいないようで出してくれなかった、、。 「嫌よ、、そんなお酒くさい男触りたくないんわ。しょーちゃんも無視しちゃっていいのよ。」 気分を害したのか裏に行ってしまった。 ーおいおい、、客を置いて行くなよ、、。 頭を抱えていると哲也が自ら離れてくれた。一点を見つめて怪しい顔をしている。 ー哲也、、お前まさか、、、。 何かを察した俺はケーキ屋で貰った紙袋を空にして哲也の下に潜らせた。その瞬間哲也の口からーー自主規制ーーが出てきた。 ー俺は何も見ていない、見ていない、見ていないから大丈夫だ! 貰いそうになる匂いに耐えながら何度も呪文のように唱えた。哲也が一段落すると、何かを悟ったママが手袋とマスクをつけて、ポリ袋を持ってきた。哲也は吐いて酒が抜けたのかよろけないくらいまで回復していた。 「ママ、袋をくれ、、。」 俺がそういうと紙袋を取り上げママが処理してくれた。テキパキと慣れた手つきを見て、俺は申し訳なく感じたが、他にも店主としてのママの行動に感心した。 「ありがとね、夏子さん、、。」 ママにいつものお礼を伝えた。照れ臭い気持ちがこみあげ下を向いた。ママは少し驚いていた様子だったがすぐにいつものままに戻っていた。 「も、、もうぉ、やだぁー、恥ずかしいじゃないの。しょーちゃんもう今日は帰りなさいな、その馬鹿を介抱したあげて、、。」 エプロンのポケットからへパリー○としじみスープの素を出して持たせてくれた。 ーほんとにいい嫁になるだろうに、、。 そんなことを思いながら哲也を担いで店を出た。  家に帰り風呂から出てくる頃には普通に話ができるほど回復していいる哲也がいた。今日はおかえり独身パーティーということになり、なり俺はビールを、哲也はファンタを飲むことになった。少し不満そうな顔をしていたが無視してやった。 ーもう何回目だろうか、こいつが振られるのは、、。 そんなことを思いながら自分はビール缶を開けた。 ー風呂上がりのいっぱいは格別だぜ、、 「ぷはぁー」 "うまい"だけでは表せないほどの旨さ、誰もを虜にするこいつに出会えて最高だと思うほどの至福だ。俺がビールにキスをしていると哲也がこちらを物欲しげに見ていた。 「うまいか?」 「もちろんうまいさ、、ハハハ」 なんだか居心地のわるい奇妙な空気が流れた。 「でも、お前はもうやめておけよ、明日仕事行けなくなるぞ、、。」 顔を上げ哲也を見ると、なんだかソワソワと落ち着かない様子でこちらを見ている。 「わかってるよ、、明日は大事な接待があるからね、、。」 そういうとネクタイをシュルシュルと外した。安心して俺はビールを机に置き、横になった。徹夜のせいかなんだか肩が重い。気にして触っていると哲也が横に来た。 「なぁ、翔太。肩揉んでやろうか?」 俺は驚いたが、タダで揉んでもらえるなら願ったり叶ったりだった。それにこの男の手捌きはそこらへんのマッサージとは一味違う。もみ返しも来ないし、なんでか体が軽くなる。 「おう!いいな、頼むよ、、。」 軽く返事をすると俺の背中の上に重い腰が乗っかった。
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