嘆きの令嬢は、銀嶺の騎士に甘く愛される

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 フェルゼンさんは、つかみどころのない紳士だった。  昔は騎士だったということと名前を教えてくれた以外は、自身のことを何一つ喋ろうとはしない。  対応もとても親切で、基本的にわたしが困るようなことを彼はしてこない。  時々わたしが泣いていると、しばらく話を聞いて、黙って部屋から去って行く。  ある時、彼は一言だけ、寝込んでいる私に告げてきた。 「君には何の落ち度もないよ」  私に、何の落ち度もないわけではなかっただろう。  おそらく、男を見る目がなかったと言う人だってたくさんいるはずだ。  だけど、気休めだったのかもしれないが、彼のその言葉に救われるような気持ちになった。  衣食住に関しても、彼がなんでも一人でこなしてくれる。  彼は料理もうまいし、家のことは何でも一人できる。夜になるといつの間にか火で風呂を焚いてくれている。  わたしのための綺麗なドレスも、どこかから調達してくれて、王都の屋敷での暮らしと遜色がなかった。  フェルゼンさんは、高齢者の多い村の護衛として雇われているそうだ。基本的には平和な村なので、普段は便利屋のようなことをしているらしい。動物を狩って、村の人々に配ったり、農作業を手伝ったりもする。  山小屋の近くにある墓に手を合わせて祈っている彼の姿を、時折目にすることもあった。だが、それが誰の墓かもわからない。  少しずつ、彼の優しさで元気を取り戻していったわたしは、思い切って彼に声をかけることにする。   「フェルゼンさん、何か手伝わせてください」 「――好きにしたら良い」  そうして、わたしは小さな村で、彼の手伝いをすることになったのだった。  
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