嘆きの令嬢は、銀嶺の騎士に甘く愛される

4/9
98人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
 ゆっくりと目を見開く。 (ここは天国……?)  とても暖かい空気の中、白いベッドの上で、わたしは身体を起こした。  周囲を見渡すと、丸太で出来た小さな部屋のようだった。 (どうして? 海に飛び込んだはずなのに、わたし、生きてるの――?)  いつの間にか、清潔な寝衣に着がえさせられている。 「やっと、目を覚ましたのか?」  突然、部屋の中に声が響いた。  声の方を振り向くと――。 ――金色の短い髪に、左のこめかみから頬にかけて大きな傷のある、精悍な顔立ちをした男性が、部屋の扉の前に立っていたのだ。  瞳の色は深い蒼をしていて、どことなく、恋人だと思い込んでいたバーンの容姿を思い起こさせた。 「どうして、わたし――」 「どういう事情があるかは知らないが、私は、自分で死のうとする人間は好きじゃないんだよ」  わたしは身体がわなわなと震えた。  また、生きて苦しまないといけないのだ。  親友を裏切ってしまった後悔に――。  気づけば泣き叫んでいた。 「でも、じゃあ、どうしたら良いのよ! どれだけ、自分の愚かさを呪っても、過去には戻れないわ! わたしはどうしようもない馬鹿なことをしてしまったのよ! 愛する人や純潔を失っただけじゃない! 大事にしていた親友まで――! 知らなかったではすまされない!」  彼は黙って聞いていた。 「あなたがわたしを助けたの? どうして助けたのよ! どうして死なせてくれなかったのよ! わたしの命ですもの、わたしがどうしようと勝手――」 「死んで良いと思ってるのは、お前だけだ――!」  彼が突然声を荒げたので、わたしはそこで止まった。 「すまない。大きな声を出して……」  そう言うと、彼は踵を返す。 「君が落ち着くまで、この家で暮らすと良い。落ち着いてから、今後のことは考えろ」  わたしに背を向けた彼は、冷静な声でそう言った。 「生きていたら、どうとでもなる。親友とやらとは、ちゃんと話をしたら良い」 (生きていたら――リリー……) 「あなた、名前は――?」 「――フェルゼン」 「フェルゼン……」  そうして、その日から、北に面する小さな村の山小屋で、わたしと彼の奇妙な生活が始まったのだ。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!