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それは一種のサービス精神のようなもの。
想像してみてください。あなたも、鏡になったと仮定して。
鏡をのぞきにくる人間たちの表情を。
ほんの少しの期待を隠した、あの表情。
もしかしたら、昨日より痩せているんじゃないか。
もしかしたら、自分は思ったより綺麗な顔をしているんじゃないだろうか。
そんな表情を目の当たりにすると……
人の好い私は、どうしても反射的に、ちょっとサービスをしたほうがいいのだろうかという義務感のようなものにとらわれるのです。
そんな気持ち、分かっていただける方もいるのではないでしょうか。
そうして私はいつも、実際よりも少しだけ整った人間の姿を映し出してしまうのでした。
特に私のご主人である、あの女性を目の前にしたときは、もう抗いようがありません。
私を長年愛用してくれている、高貴なあの人の前では。
若いころからずっと私を部屋に置いてくれる、とてもやさしいあの人。
あの人への親愛の情、いや、ちょっとした恋慕の情も手伝って、少しばかり目立ち始めた彼女のほうれい線や、目じりのシワなんかを私はそっと隠します。
すると彼女は満足げに私に向かって微笑みかけ、いつも部屋を後にするのでした。
そして私は、その微笑みが本当は彼女自身に向けられたものだと知りながらも、じっと小さく、喜びに似た感情をかみしめるのです。
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