人のよい鏡

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「うん……鏡さん、君かい? ああ、いや、この前は意地悪なこと言って悪かったね。」 「ううん、あなたの言ったこと、私もずっと気にしてたことだから」 「僕はただ……鏡さんがそうやって人の姿をいたずらに美しく見せてると、ちょっと危険なこともあるかなと思ったから。」  そう言うとブラシさんは、私に大昔の物語を聞かせてくれました。  それはナルキッソスという美少年の悲劇の物語。彼は水面に映った自分自身の美しさに惹かれるあまり、水に落ちて死んでしまったといいます。  これは外見に関する自己愛への戒めと言っていいでしょう。 「そんなこともあったのですね」と私は感心して答えます。 「私はというと、ペルセウスの鏡の盾にいつも憧れていて」  私はメデューサを倒したという、伝説の鏡の盾の話をブラシさんに始めます。  怪物を倒した伝説の鏡、それはもう私たちの中ではずっと語り草のヒーローです。 「そうだね……たしかに、もしもその鏡がメデューサの姿をきちんと正しく映してなかったら、奴を倒せてなかったかも」  ブラシさんは頷きます。 「ええ、もしも鏡の盾が、気を使って実際より美人な姿を映してたりしたら」 「メデューサ、倒れるどころか喜んでますます元気になっちゃったりしてね」  私たちは笑いあいました。 「ありがとうブラシさん、私今日から、正直になってみようと思う。それが本当のやさしさなのかなと思うし」 「そうかい鏡さん、それでいいと思うよ。それにご主人様はとてもやさしい女性だから、本当のことを言ったって大丈夫なお人だよ」  こうして私は気持ち安らかに、眠りについたのでした。
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