人のよい鏡

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 翌朝。  その日もまた、親愛なるご主人様が私の目の前に姿を見せました。 「私、綺麗かしら……?」  彼女の心の声が聞こえてきます。  もう長年の付き合い、いつしか彼女とは意思の疎通まで出来てしまうようになっているのです。  ええ、あなた様は今日もとても綺麗ですよ。実際、それは本当のこと。 「じゃあ私……世界で一番綺麗?」  あいにく、私は今日から正直者なのです。それが本当の優しさなのですから。  いいえご主人様。あなたは綺麗ですが、年齢相応のシワやたるみは否めません。  今はこの国に、もっとあなたより若く美しい姫がいるのです。その名前はこうこう、こうで…… 「え、そうなの?」  彼女は一瞬、あっけにとられた表情をします。しかし、 「教えてくれてありがと」とすぐに気を取り直し、私の前から立ち去りました。  ほら、正直に言って良かった。事実を受け入れてくれたし、その上お礼まで言われたじゃありませんか。 「おーいちょっと来て」  そうして鏡の前から立ち上がった40歳の白雪姫は、廊下に顔を出して大声で侍女を呼んだ。 「大至急、毒リンゴ用意しろ。老婆に化ける変装道具もだ。さっさとしろ、急げ」  正直者であることに満足した私は、そうやって人の歴史が繰り返されてゆくことなど、まったく知る由もなかったのでした。 (完)
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