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恋愛について。
春は特別な季節。
別れがあって、新たな出会いがある。
月で分けるなら、三月は別れ、四月が出会い。
私はそれが、少しだけ憂鬱に感じていた。
「春が先か、花が先か」
「は?」
目の前に座る波香の突然の発言に首を傾げる。
彼女は、うーん、と唸りつつオレンジジュースのストローを意味なく回した。
「いやあさ、春と言えば、出会いでしょ?」
「うん」
「んで、出会いと言えば、恋じゃない?」
「うん?」
「出会って恋に落ちるか、出会う前に恋に落ちるか。どっちかなあって」
彼女の思考についていけず、「よくわかんないんだけど……」と首をかしげれば、彼女は身を乗り出す。
「つまりね、こういうこと」
指で、人を作りながら、説明する。
――出会い仲良くなって、恋に落ちていくか。それとも一目惚れして、出会いに行くか。
「なるほど」ととりあえず返すと、波香はきっちりメイクの施された顔に洗練された笑みを浮かべた。
「で、実花利はどう思う?」
「え?」
「春が先か、花が先か」
今度は私が唸る番だった。一目惚れも、出会ってから恋に落ちることも、経験済みだ。
だが、しいて言うなら……。
「春、かな」
「なんで?」
「見た目で判断したくない」
私の返答に波香は椅子の背もたれに寄り掛かって、はああ、と大きくため息を吐いた。
「真面目だわ」
「それ、褒めてないでしょ」
「まあでも、あんたらしい」
そう言ってオレンジジュースの隣に置いたホットのカフェラテを口に付ける。んで、眉間にしわを寄せた。どうやらまだ熱かったらしい。
苦笑しつつ私も言い返す。
「波香は一目惚れして失敗しそうだよね」
「お、言ったな?」
「そもそも一目惚れで上手くいく確率低いもんだし」
人は見た目じゃない、とはよく言ったものだ。イケメンでも清潔感がないとか、チャラいとか。
全てのイケメンが悪いわけじゃないが、結局自惚れは少なからずある。
波香はまたオレンジジュースのストローに手をかけて、一口飲みつつ言う。
「まあそうだけどさあ。夢持とうよ。乙女なんだし」
「ここは現実だしなあ」
夢ばかり見てらんないでしょ、と返せば、いよいよつまんなそうにメニューを見始める。
でもこればかりは価値観の違いと言うやつだから仕方ない。
その後は適当に話してショッピングモールをうろついて、解散した。
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