4月10日 清明 万物は清々しく明るい。なのに僕は……。

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◇◇◇  5年前はこんな始まりだった。  その朝、僕は少し寝坊してあわてて鞄を引っ掴み、アパートの階段を一足飛ばしでカンカン鳴らして駆け落ちると、見上げた空は薄く霞がかっていた。  なんだか花粉が多そうだ。  それが僕が抱いたその日についての最初の感想。  今日は入学式。式に出席しないといけない。自転車に飛び乗り大学に急ぐ。足を必死にクルクル回して結構な勢いで坂道を駆け下り、いつもの半分の時間で自転車置き場に自転車を投げ込んで桜並木を全力ダッシュして急ブレーキで振り向いた。  その瞬間春の風が吹いて、僕は恋に落ちた。  世界のすべてが桃色に染まった。  それがこの日について僕が抱いた残り全ての感想。  けれども僕はけたたましく鳴り響くスマホに謝りながらその場を後にするしかなかった。その後、入学式で講堂に居並ぶ新入生を必死で見渡してもその人の姿を見つけることはできなかった。スーツだったからてっきり新入生だと思っていたのに。  その人が僕の運命であることは一目で分かっていた。これまで初恋だとか恋愛だとか思ってたのと全く次元を異にした。僕はあなたのものです。普通にそう思った。すっかり赤い糸で雁字搦めだ。だから一旦別れてもきっとすぐ会えると確信していたのに。  こんなことなら式なんて病欠すればよかった。本当に。ただでさえ入学式なんてつまらない。なのになぜこんな目に。でも欠席してたら多分出会えなかった。出会えたのにもういない。そう思うと余計、世の中が真っ暗になった。早くここから飛び出して探しに行きたい。そんな焦りで手のひらを湿らせながら、めでたいはずの式が早く終ることをジリジリと祈った。
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