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◇◇◇
4月11日 晴れ 運命の日のただの次の日
「雪村先生大丈夫っすか?」
「あーうー、だめ」
「まじどったの? 風邪?」
僕は研究室でひんやりした白い事務机に突っ伏して、極小サイズのサイコロをピンセットで積み上げていた。何も考えたくない時の手慰み。でも10個積んで崩れ去る。ああ、もうだめだ。この世の終わりが来た。賽の河原にいる。そんな感じ。
「なー、緑木。この研究室、女子来ないよね」
「そっすね」
「熱力学とか、女子取らないよね」
「取んないっすね」
「あぁあ~」
「そんなん、毎年でしょうが」
僕は雪村 成。
この大学で幸運にも助教をしている。27歳。最年少くらいだから、多分優秀なほうだと思ってる。
緑木はこの研究室の修士で研究テーマは全然別だけど、なんだかんだと仲がよかった。
僕は鉄の組成の研究をしていて、主な研究材料は超高純度鉄。鉄の純度を上げる方法やどのくらいで破壊されるかといった疲労強度の研究をしたり、これを基礎に他の研究者と特殊合金を作ったりと素材に関する研究をしている。それで大規模な実験ができる機材や資材が揃ってて複数分野の研究者が所属しているこの研究室に所属している。
それとは別にこの大学で熱力学とか金属工学とか、そういう授業をいくつか受け持っている。
つまり、理系の中でも特に女子の少ない工学系分野。研究室にも教室にも女子なんてほとんど見ない。
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