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「あ、はい」
「ん? 君は?」
「あ、先生、俺の彼女だよ」
彼は隠す事なく、私をそう紹介する。
「あぁ、言ってた彼女か。彼女のお陰で橘が変わったんだな…」
「うん……」
「あ! 橘、ちょっと机寄せるの手伝え」
先生はそう言うと、教卓の前の机をいくつか動かして、向き合うようにくっつけて並べる。
そして、私に声をかけた。
「ごめんね。君はちょっと、教室から出ててもらえるかな。あ、廊下に椅子持って行っていいよ」
「はい……」
そう言って1つ椅子を借りて、教室を出て窓際の壁に椅子を置いた。
カツカツと靴の音がして、顔を上げるとパパとママが教室に来た。
「パパ、えっ……ママも?」
「うん……尋の進路でしょ…ママも聞いとかないとね」
そう言って微笑む。
パパが教室のドアを開け、中にいる先生に声をかける。
「すいません。ちょっと遅くなってしまって」
「いえいえ、まっ、どうぞ、座って下さい」
ママも教室に入り、ドアが閉まる。
私は椅子に座り教室の壁にもたれ、中の会話が聞こえるように静かに待っていた。
先生が話す声が聞こえる。
「初めまして、担任の大塚と申します。橘から話は伺っております。大変大きな決断をされたと思っております。担任の私が申し上げるのも変かも知れませんが、ご夫妻の決断に感謝致します。橘を家族として迎えて下さりありがとうございます」
「あ…いえ。私達はただ、尋と出会い、尋の事を知って共に生きていきたい、家族になりたいと思っただけです。感謝されるような事はありません。家族が増え、楽しく喜びが増えたのですから、こちらが感謝したいぐらいです」
「ふっ……橘…いいご両親だな」
「……っ……はいっ……っ……俺の自慢の両親だよ。先生!」
「あぁ……っ……そうだな…」
中ですすり泣く声と、震える声。
私は廊下で話を聞きながら、涙を流していた。
「では、進路の話を始めさせて頂きます……」
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