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 その日は店の休前日で、しかも給料日の翌日だったので、私は久しぶりに新宿の ”DISTANCE” に向かった。  この店は出会い系のゲイバーの中でも居心地が良く、雰囲気を楽しみつつ出会いを求められる場として、時々顔を出していた。  だが今日は、店に入ってカウンター席に座ろうとしたところで、妙な角度でボックス席の客と目が合ってしまった。  奥の座席にはそれぞれ仕切りが付いている。  そこは暗黙の了解でカップルシートと看做されているので、私のようにお相手探しに来た者には無縁のエリアだ。  だから普段だったら、そちらのエリアの誰かと目が合ったとしても、さっさと視線を外すのだが、その子供っぽい顔の視線はまるで助けを乞うような様子に思えたので、私は目を逸らさなかった。  忌憚の無い意見として言わせてもらうならば、このバーのマスターは、良くも悪くもお人好しなので、通報はしたがらないがトラブルには対応してくれる。  だからもし本当に助けを求めているなら大きな声を上げるだけで良い。  それをせず、ただチラチラとブースの外を伺うような様子が奇妙に思えたのだ。
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