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「ただい」
ドアを開けると、私の帰りを察知していたかのように、一匹の“鬼”が腕を組んだまま仁王立ちしていた。
私が『ま』の口で固まっていると、鬼はごつごつの手を突き出してきた。
理解のある私は抵抗することなく懐に手を入れ今日の稼ぎを鬼に渡した。
「これだけかい? 最近しょぼいんじゃないの?」
「まあ、今は緊急事態で世界情勢が変わっちゃったし、昔みたいに稼げないよ」
「まさか、外回りなのをいいことにサボってたりしないよね?」
鬼は合わせた手をバキボキと鳴らしてみせた。
「はは、まさか。家族のために身を粉にして働いてるさ」
「アタイが求めるのは結果だけ。さっさと出世しないと本当に粉々にするよ」
ドスドスと足音を響かせ、鬼は住み処へ引っ込んでいった。
……ふぅ。毎日あんなのに出迎えられてちゃまだ残業で会社に寝泊まりする方がマシだな。
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