ゾクゾク仮ゾク

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「おやマサル、帰ってたんかい」  襖が開き、プルプルと小刻みに震えながら家族のひとりが現れた。 「はい。ただいま帰りました」 「して、飯はまだかい?」 「まだだと思いますよ」 「そうかいそうかい。東京オリンピックは楽しみじゃのう。わしゃマラソンの円谷と東洋の魔女に期待しとるんじゃ」 「それは1964年開催の方ですね」 「にしても流行り病というのは恐ろしいのう。シゲオもコレラにゃ気をつけなきゃいかんぞ」 「それは明治に流行った感染症ですね」 「そうかいそうかい。して、飯はまだかい?」  会話が噛み合わない理由は彼が古いタイプの“ロボット”だからだ。アップデートをしているわけでもないので情報は古いままだわ私の名前も間違えるわ動きもぎこちないわでいよいよおしゃかが近いのかもしれない。  その時、なにかが足元を走り抜け素早くテーブルの下に潜り込んだ。 「ああ、ミケか。ただいま」 「フシャー」  話し掛けた途端、我が家のペットは尻尾を巻いて逃げていった。  猫だと思ったかな? いや、今のは幻の生物“ツチノコ”だ。幻だけあって警戒心がとても強く、SNSに動画をアップしたいのだがなかなか撮らせてもらえない。
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