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死のシナリオ お題【わたしの本棚】
「なぁ俺の友達の久美と佳奈、知らない?
お前友達だろ?」
「知らないよ」
ほかほかのこたつに入りながら彼女に問う。
一週間ぐらい前から女友達が二人も行方不明になっている。何かの事件に巻き込まれたのか。二人で家出でもしたのだろうか。謎だ。
彼女の部屋は初めて来た。ピンクやホワイトで統一された部屋。彼女らしいなと思う。
このモコモコのこたつカバーも可愛い。
こたつの中で彼女が手をぎゅっと握ってきた。
猫の様な大きな目が僕を見つめ、ニカッと歯を出して微笑む。彼女は可愛いし、大好きだ。
でも、久美と佳奈も好きだった。
彼女がパッと手を離し、「飲み物持ってくるね」と言って、キッチンへと向かった。
彼女の部屋をぐるりと見渡す。一際不気味な雰囲気を出している物がある。それは本棚だった。彼女は本が好きだと言っていた。僕はよいしょと立ち上がり、本棚の方へ足を寄せた。
綺麗に並べられた本たち。ホラーやミステリーが多いようだ。タイトルを横になぞっていくと〝黒魔術〟という本が目に入った。
人差し指で引き出して、手に取ってみる。
色々なページに付箋が貼ってあり、その一つを広げてみた。
〝髪の毛の黒魔術〟
〝苦しめたい人の髪の毛をノートに……〟
怖くてパタンと本を閉じた。
見ない方がいい気がした。黒魔術なんて本当に効くのか?こんなん出来たらみんな呪いやらで死んでしまうじゃないか。
その本を本棚にしまおうとした時、もう一つ不気味なオーラを出している黒いノートを見つける。本よりも少し小さなノート。広げると文字が小説の様に並んでいる。そのページのタイトルは〝焼死〟。次の段からその主人公が〝焼死〟するまでのストーリー、シナリオが書かれている。
な、何これ?彼女が書いた小説?
恐怖でノートを持つ手がガタガタと震え、ノートを落としそうなった。そのシナリオの最後のページには、こげ茶色の長い糸の様な髪が挟まっていた。
背筋が凍って、一瞬で体が氷の様に凍てついた気がした。
「何してるの?」
ドクン!
「な、な、何にも!!」
俺は後ろ手でそのノートを本棚の隙間へと押し込んだ。
「ふぅ〜ん……コーヒーどうぞ」
「あ、あ、ありがと」
こたつへと戻り、手にかいた冷や汗を温めたが……まだ生温かい。
その手でマグカップを持つとカタカタと小刻みに震えた。左手でそれを隠すように口元へと持っていき、黒い液体をごくんと飲んだ。
彼女に気付かれた?
鼓動が耳に響いてうるさい。
彼女は不気味な笑みを浮かべながら、肌色の液体を静かに飲んでいる。
「ほ、本いっぱいあるね!」
「わたしの本棚見たの?」
その声はカッターの刃の様に鋭い、冷たい声だった。
目つきはまるで、猫の様に吊り上がり鋭い。心臓に尖った爪を刺された気分になって、思わず立ち上がった。
「今日は帰るね!」
「待ってよ!」
玄関の方へ逃げようとする腕を、彼女が爪を立てる様に掴んだ。ゾクゾクと怖気が立つ。
あんなに可愛いかった彼女が恐ろしい。怖い。今すぐ逃げ出したい。
俺の背中へと回した手を振り払い、玄関のドアに必死に手を伸ばす。
重い扉を開け放って、勢いよく外へと逃げ出した。
振り向く事なく階段をカンカン!と降りていく。背後からは凄い殺気を感じ、「コロス」という呟きが聞こえた気がした。
沙織はこたつの上で黒いノートを広げる。
邪魔な女たちは私が書いたシナリオで殺してやった。彼に気付かれた? でも、あの男が浮気するのが悪いんだ。
どうしようか?あの男も殺す?
沙織は次の死のシナリオに頭を悩ませるのであった。
終
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